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養殖魚養成モニタリング

養殖業では、養成魚の出荷調整や成長に応じた給餌を行うために、養成魚の体サイズ管理が必須です。当研究室ではステレオ画像計測による体サイズ計測と成長モニタリングの研究を行っています。また、魚が快適に育成できる環境を整えることで摂餌活性をあげて成長促進させつつ病気も防ぐ、いわゆるFish welfareの評価に重要な魚群行動のモニタリングも行っています。

​成長モニタリングの重要性

養殖魚を育てる過程において生簀の養成魚の成長を把握することは、給餌量の決定や出荷時期の調整などの養魚管理にとても重要です。たとえば、養成魚の出荷のタイミングを勘や経験に基づき決定すると体サイズを見誤ってしまうリスクがあります。その結果がもたらす売値見込みの誤差が経営に与える影響を考慮すると,体サイズ推定には正確さが求められます。このため,生産者は生簀を遊泳する養成魚を手網などで捕獲し,魚体長や体重を計測することで成長を把握する工夫をしています。しかし、この方法だと、手網で捕獲できる魚が水面付近を遊泳する個体に限られることや、計測者が異なれば計測魚体長の読み取り値に観測誤差が生じることも懸念されます。また、捕獲した養成魚は,計測時の保定に麻酔を処置することがあり,養成魚はストレスを受けます。このような捕獲計測で生じる養成魚の外傷や外的,内的ストレスを原因に感染症発生や摂餌活性の低下などの危険性が伴うため、養殖魚を非接触に計測する手段が求められています。

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光学ステレオカメラによる体サイズ計測

捕獲による魚体計測は、捕獲できる範囲や、魚体への外的・内的ストレス等の問題があり、養成魚の成長モニタリング手法として最善ではないかもしれません。そこで当研究室では、養殖魚を非接触に計測出来る光学カメラを用いた体サイズ計測に着眼し、養成魚の成長モニタリング手法の研究を行っています。具体的には市販のアクションカメラ2–4機により作製した安価なステレオカメラや市販の水中ステレオカメラを用いて、三角測量の原理で魚の吻端と尾鰭の特徴点を3次元計測します。その特徴点同士の3次元空間上の距離を求めることで魚体長を推定できます。この方法でマダイの体サイズ計測を実施したところ、従来から実施されている捕獲による魚体長計測と遜色ない結果が得られました。しかし課題もあり、カメラで撮影される養成魚は養殖生簀の一部分を通過する魚であり、生簀を遊泳しているすべての個体の情報を得ることはできません。標本となる計測対象魚の選定次第では、養成魚の成長を代表する値を把握できない可能性があります。養成魚の全体像を把握するために必要な、カメラ計測のノウハウや、計測された体サイズデータから適切に成長予測を行う手法を研究しています。

適切な体サイズ推定を行うには?

​過去の知見からも、大型魚から小型魚まで多様な体サイズの養成魚が生簀内に無作為に分布しているわけではなく,その分布は体サイズに影響されていた報告もあります。また,カメラ計測では,カメラの画角,水の透明度や照度の影響で計測可能な空間が制限され,その計測可能な空間を対象魚が通過する可能性は対象魚群の行動特性に左右されます。そのなかで、養成魚の体サイズの違いによって滞在深度が異なる、あるいは、日々刻々と変化する養成環境の影響が体サイズによって異なれば、体サイズによって空間分布に偏りが生じても不思議ではありません。そうなった場合では、ステレオカメラをつかった体サイズ計測に影響し,成長予測にも影響する可能性があります。そのために、養殖魚の魚群行動特性を理解し、どの深度にカメラを設置すれば養成魚群を代表する計測値が得ることができるのかを検討したり、計測の偏りによる観測誤差が発生してもロバストに成長予測できるように成長モデルを活用したり、カメラ計測の計測精度そのものを向上させる研究も行っています。

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成長モニタリング手法のノウハウの確立

生簀のどの部分のどの深度にカメラを設置すれば養成魚群を代表する計測値が得ることができるのかを検討するためには、生簀の中を遊泳する養成魚すべてを継続的に追跡し、滞在する空間分布を把握しなければなりません。しかし、そのような技術は現時点では見当たりません。そこで、水産情報工学研究室の高橋准教授と共同で、魚群行動の実測値に基づいたリアルな魚群モデルを仮想空間の生簀で遊泳させるシミュレーションで、体サイズ別の養成魚の空間分布を予測し,カメラ設置位置の違いによる計測結果への影響を研究しています。

養殖魚の成長に関する研究

​カメラによる成長モニタリング研究のほか、ピットタグを用いた養殖サクラマスの成長の特徴を把握する研究や、バイオロギングを用いて体サイズ別の養成魚の深度を計測することで、体サイズと遊泳深度の関係を調べる研究をを行っています。

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養殖魚養成モニタリングに関する成果

  1. Kazuyoshi Komeyama, Atsushi Ikegami, Kichinosuke Fukuda, Azusa Ishida, Yuto Sasaki, Hitoshi Maeno, Shigeru Asaumi, Takashi Uchida, Yusei Katahira, Akio Seki, Tetsuo Oka, Yasuhiko Shiina, Yuki Takahashi, Body size estimation method for seasonally growing farmed yellowtail Seriola quinqueradiata in an aquaculture net cage using a stereo camera, Fisheries Science, 90, 227–237. (2024) https://doi.org/10.1007/s12562-023-01736-z

  2. Yuki Takahashi, Atsushi Ikegami, Hitoshi Maeno, Shigeru Asaumi, Akio Seki, Tetsuo Oka, Yasuhiko Shiina, Kazuyoshi Komeyama, Evaluating bias in stereo camera measurements using swimming behavior simulations, Fisheries Science, 90, 269–279. (2024) https://doi.org/10.1007/s12562-023-01742-1

  3. 山崎祐人, 池上温史, 渡辺孝行, 能登正樹, 高橋英祐, 山羽悦郎, 高橋勇樹, 米山和良(責任者), 海上生簀でのステレオカメラを使用した養殖サクラマスの成長推定, 水産工学, 61, 1–8. (2024) https://doi.org/10.18903/fisheng.61.1_1

  4. 池上温史, 佐々木勇人, 高橋勇樹, 前野 仁, 浅海 茂, 内田 隆, 片平裕生, 関 昭生, 岡 哲生, 椎名康彦, 米山和良(責任者), 養殖ブリを対象とした光学ステレオカメラ計測において設置深度や撮影時刻が計測個体数や計測平均尾叉長に与える影響, 日本水産学会誌, 90, 134-136. (2024) https://doi.org/10.2331/suisan.23-00023

  5. Tatsuya Tanaka, Ryunosuke Ikeda, Yuta Yuta, Kanji Tsurukawa, Satoshi Nakamura, Takeharu Yamaguchi and Kazuyoshi Komeyama(責任者), Annual monitoring of the growth of Red sea bream using multi-stereo image measurement.  Fisheries Science, Vol.85, pp1037–1043 (2019). https://doi.org/10.1007/s12562-019-01347-7

  6. ​Kazuyoshi Komeyama, Tatsuya Tanaka, Takeharu Yamaguchi, Shigeru Asaumi, Shinsuke Torisawa and Tsutomu Takagi, Body measurement of reared Red sea bream using stereo vision. Journal of Robotics and Mechatronics, Vol. 30, pp. 231-237 (2018). https://doi.org/10.20965/jrm.2018.p0231

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